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「医療調査」-1
加茂隆康著「交通事故紛争」(文春新書、2003年刊)より
古稀記念旅行
東京在住の野々村貞さん(仮名)という婦人が、北海道に旅行しました。
彼女の古稀の祝いに、カメラマンの息子さんが母親を誘ったのです。飛行機で羽田から釧路に降り、あとはレンタカーを借りて道内を回ります。釧路から根室に行き、野付半島から知床、摩周湖、屈斜路湖、さらに層雲峡、富良野、札幌、洞爺湖とめぐる10日間の日程です。お歳を召していたので、婦人にとって無理がないよう、ゆったりした計画をたてました。
2日目のことです。野付半島に向かう途中の道で信号待ちで停まったとき、後方からきた乗用車に追突されました。交通事故の発生です。助手席に乗っていた婦人は、ちょうどそのとき、ガイドブックを膝元において見ていました。顔を少し前かがみにしていた際、うしろから衝撃をうけましたから、瞬間的に首がガクンと後方にふられます。
警察にだけはすぐ連絡したものの、病院には行きませんでした。
見知らぬ土地で知らない医者の治療はうけたくないというのが、婦人のそのときの気持ちでした。第一、荒涼とした野付半島に近い原野で、病院があるのかどうかさえ、東京の者にはわかりません。
婦人は首に多少の痛みを感じましたが、強がりをいって息子を安心させます。
「大丈夫よ」
息子さんのほうは事故のとき、シートのヘッドレストに頭をしっかりつけていましたので、さほどひどい衝撃は感じませんでした。
これから先、まだ8日間の旅程が残っています。せっかく来た北海道です。元気なうちに母親に、景勝地を案内してあげたい。母親思いの息子さんはそう考えて、旅を続けました。
東京に帰ってからのことです、婦人が首にはげしい痛みを感じたのは。めまいがし、吐き気すらおぼえます。彼女はたまらず自宅付近の接骨院を訪れました。交通事故にあった日から14日目のことです。
逆にいえば交通事故後13日間は、病院に行かなかったわけです。この空白期間の存在が、保険会社にあげ足をとられるきっかけとなります。
(「医療調査」-2へ続く)
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交通事故弁護士
加茂隆康事務所
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