ドッキリ!実話

示談後の悔し涙 (1/7)

損保の提示額に疑問をお持ちの方はぜひお読み下さい。7ページと少し長いですが、きっとお役に立ちます。

― 示談後の来訪 ―

 私の本をお読みくださったという男性が私の事務所に訪ねてきました。
 霜雪の還暦に近い方で、25歳になった息子さんの事故の件で、見てもらいたいものがあるといいます。
 とりだしたのは、示談書でした。加害者、被害者のそれぞれの欄に署名捺印がされています。日付は3か月前のものです。

 「このとおり示談ができて、示談金もすでに支払われているんですが、私、早まったことをしたかと思いましてねぇ」

 「とおっしゃいますと?」

 「将来、息子になにかあったとき、この示談書で大丈夫なんだろうか、親として息子のために最善を尽くしてやったといえるのかだろうか不安になったものですから、ちょっと見ていただきたいのですが」

 事故は、3年前6月の夕方、江戸川区内で起きました。当時大学生だった彼の息子さんが、信号機のない交差点をバイクで直進しようとしたところ、対向車線から右折してきた乗用車にはねられました。診断書には、脳挫傷、肝破裂、腎挫傷、肺挫傷、無気肺、右上腕骨骨折、左大腿骨骨折、左肩挫傷といった傷病名が列挙されています。相当な重傷であったと推測されます。左股関節にはスクリューと呼ばれるネジがはめ込まれています。これは股関節を曲げたり回したりするのを助けるためのものです。それでも左の股関節を曲げようとするとき、ひっかかる感じが残り、旋回は思うようにできません。息子さんは、左股に金属が入っているという不安感や違和感もあるといっているそうです。右腕には17センチ、左股には20センチの傷痕もあります。手術から2年を経過した時点での医師の診断書には、次のように書かれていました。
 「現在、左股関節骨頭変化はないが、将来骨頭壊死の可能性も0%ではない」
 股関節(足のつけ根の関節)というのは、骨盤のへこんだ部分に大腿骨の上端の球状になった部分がはまり込む形でできています。診断書にいう骨頭とは、大腿骨のこの球状になった部分を指します。
 そこが壊死する可能性があるということは、何を意味するか。
 それは股関節の機能がそのままでは果たせなくなるということです。壊死した骨を手術で切り取り、人工的に骨頭と同じ形のもの(人工骨頭)を入れるということも視野におかなくてはなりません。
 将来のある息子さんのことを彼が心配するのは、父親の心情としては当然のことでした。

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