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ドッキリ!実話

シドニーの死亡事故

― 現地法との間に割り切れなさ ―

(1995年 法務省保護局「更正保護」掲載)

 海外旅行でいまもっとも人気の高い旅行先は、オーストラリアである。
 現地で気軽にレンタカーを借りて、走りまわる人も多いが、そこには思いがけない落とし穴が待っている。

 大学4年生になるEさんの息子さんが、オーストラリアで交通事故にあい死亡した。車を運転していたのは、日本から短期留学でシドニーにホームステイしていた彼の友人であった。
 わずか8日間、観光目的でオーストラリアを訪問した際の出来事だった。
 牧草地帯で、乗用車が路肩の樹木に激突したのだ。
 友人の脇見運転が原因だった。友人の方は幸い一命を取りとめたが、助手席の彼のほうが死亡した。

 加害車両は友人が現地で買った車で、自動車保険がついていなかった。
 損害賠償を請求できるのは、息子を失ったEさん夫妻である。Eさん夫妻は東京近郊に住み、加害者の男性もすでに日本に帰国していた。
 交通事故で人を死亡させた場合、日本では加害者が相応の賠償金を支払うのが当然である。だから、Eさん夫妻は何の疑いもなく、加害者に賠償金を請求した。
 ところが、加害者は弁護士をたてて支払いを拒絶してきた。
その回答書にいわく、

「オーストラリア法にもとづき、賠償金はお支払いできません」

と。
 日本人が海外で交通事故を起こし、被害者も日本人で、日本国内で提訴された場合、賠償問題では原則として現地の法律が適用される。
 このような場合、どこの国の法律を適用するかについて、日本は現地の法律を採用するという方式(これを「不法行為地法主義」という)をとっているからだ。
 Eさんの息子さんが事故にあったオーストラリア・ニューサウスウェールズ州(シドニーや首都キャンベラがある)の場合、現地の法律には、人を死亡させても、逸失利益(将来の収入を失った損害)を賠償するという考え方がない。

 また遺族の慰謝料を認めるのも例外的で、その結果、遺族に支払われる補償金の額は、日本国内で起きた死亡事故のケースに比べ、格段に低い金額になってしまう。
 Eさんの場合、事故の場所がもし日本であったなら、約7000万円の補償が得られるのに、現地の州法が適用されると、せいぜい800万円前後の補償金しかうけられない。
 厳密に査定すれば、金額はもっと下がる可能性もある。

 こういう場合、加害者側は賠償金を支払いたくないために、杓子定規に現地の法律で処理しようとするが、被害者の立場を考えると、私にはどうしても割り切れなさが残る。
 被害者にあまりにも気の毒な結果をもたらす場合には、私は現地の法律の適用を排除し、日本法を適用してもよいのではないかと考えている。しかし、裁判所はなかなか融通がきかない。

 Eさんのケースは、いまだ提訴されてはいないが、提訴してもEさんの要求がとおる可能性は少ないだろう。
 死亡事故が起きたとき、日本人からみて満足のいく補償をうけられない国(オーストラリア、中国など)を旅行するときはどうしたらよいか。
 それには、自衛しかない。加害者からの補償金がたとえゼロでもあきらめがつくくらいの、十二分な海外旅行傷害保険に加入してから出かけるのにつきる。

(完)

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