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交通事故弁護士・加茂隆康の情熱実話 「医療調査」-6の1 《Y損保の2枚舌-1》

2017.05.08

「医療調査」-6の1
 
Y損保の2枚舌-1


 Y損保の担当者は、35歳前後の矢部(仮名)という人物でした。細身で背が高く、あごがとがっています。言葉遣いこそ丁寧なものの、なにを言われようと妥協するものかといった狷介さがただよっています。
 
「せめて治療費の額さえ安くなれば、その分、被害者の方への支払額をふやすことができるんですがね。治療期間があまりにも長く、それゆえ治療費が高額になるので、うちとしても困っているんです」
「そうおっしゃいますが、この交通事故の被害者は70歳の高齢者ですよ。若い人がけがをした場合とちがい、治療が長びくのも致し方ないじゃありませんか。あなたは被害者がわざと治療を長引かせたとでもいいたいんですか」
「いえ。そんなことは申し上げておりません。ただこの程度の交通事故なら、ふつうは3か月くらいで治るはずだと。運転していた息子さんのほうはたいしたことはなかったわけですし。治らないのはほかに原因があるんじゃないかと……。もともと首を患っていたとか……」
「被害者に特段の既往症はなかったと、お宅の医療調査に対する病院からの回答書にも書いてあるじゃありませんか」
弁護士として、こちらの反論にも熱が入ります。
「そういう回答になってはいますがねぇ。はたして本当かどうか……」
 彼は回答を信用していない風情です。
 
「それに単価の問題もありますし……」
「この病院の単価は1点20円です。他の医療機関に比べても決して高いわけではないでしょう。東京地裁でも、この種の事案で治療期間が10か月、1点単価20円とする治療費は全額認めておりますよ」
「さあ、それはケースバイケースでしょうし。東京地裁の過去の判例でも、健保診療である1点単価10円を相当とするという有名な判決が出ていますから……。このケースでも病院側でもう少し譲歩してくれて、1点当たりの単価を20円から下げていただき、総額をもう少しおさえていただければ、治療期間10か月分をまるまる認めることもできますので、被害者への上乗せも可能なんですが。いずれにしろ治療費は、いま病院と交渉している最中なんです」
 
 賠償金を増額できないのは全て病院のせいだ。単価の面で病院さえ譲歩してくれれば賠償金の上乗せが可能なのに、いかんせん、病院がうんといってくれない。彼のいいたいのはそういうことでした。
 
「医療調査」6の2へ続く)
 

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