ドッキリ!実話

男のメンツ (4/4)

  1. Gタクシーは布団問屋F商店に対し、本件交通事故による一切の損害賠償金として、金八万円の支払義務があることを認め、これを次のとおり分割して支払う。
    (1)平成×年五月末日限り、金四万円
    (2)平成×年六月末日限り、金四万円
  2. GタクシーがF商店に対し、前項(1)の債務の支払いを遅滞なく履行したときは、F商店はGタクシーに対し、その余の債務を免除する。
  3. GタクシーがF商店に対し、第一項(1)の債務の支払いを遅滞したときは、Gタクシーは直ちに期限の利益を喪失し、金八万円から既払金を控除した残金全額を直ちに支払う。
     右支払いにあたっては、GタクシーはF商店に対し、未払金につき、事故発生日から完済の日まで、年十四パーセントの遅延損害金を付加して支払う。
  4. F商店とGタクシーの間では、本件交通事故に関し、本示談条項に定める以外、何らの債権債務がないことを相互に確認する。

 この骨子はこういうことだ。まずこちらの損害につき、全額の支払いを相手に認めさせ、それをあえて半額ずつ二回にわけて分割で支払わせる。そして、一回目の支払いを履行したときは、こちらが相手に残金の支払いを免除してやるのである。逆に、万一支払いを怠ったときは、全額を直ちに支払わせるだけでなく、それに遅延損害金も付加して払わせる。こうすれば、支払う金額は単純に半額にした場合とかわりないが、文面のうえでは相手に100パーセント非があるようになり、それをこちらが大局的な見地から半額に負けてやったことになる。もし相手がうすうす自分の非を悟っていたなら、このくらいの条件は呑むであろう。
 東さんと西さんは、ぼくの書いた草案を代わる代わる手にとりながら、

「ははあ・・・・・・なーるほど。こんな手があるんですか」

「これはちょっと、素人では思いつきませんねぇ」

「まあ、私としてもめったに使う手ではないんですがね。今回のように、メンツにこだわっている場合以外は」

「課長、これでしたら、うちのメンツもたつんじゃありませんか」

「そうだねぇ。相手がこれにのってくればいいが」

 二人は、わが意を得たというように元気をとりもどし、帰っていった。

それから五日後、東さんよりぼくの事務所に電話が入った。

「先生、おかげさまで、先生の原案どおり示談を成立させました。むこうは多少ぶつくさ言っておりましたが、うちの方は、先生に依頼するつもりなんだ、これが呑めないって言うんなら、タクシーの差押さえをするぞって言いましたら、しぶしぶ判を押しました。ありがとうございました」

 東さんの声は、いつになくはずんでいた。

(完)

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